2 彼女の美学 〜Merchant Aesthetics


「ちょろいちょろい。私にかかればなんてことないね」

迷いの森を探索し始めたクアトは、弱いモンスターは叩き潰し、強いモンスターは見つけ次第逃げるというやり方でサクサクと森を進む。

見たこともないようなモンスターがいた気がしないでもないが、そんなことを気にするクアトではなかった。

森の探索を始めて、時間にして一時間もかからないうちにチョロチョロと水が湧き出る音を聞き取る。

早足で音のするほうへと近寄ってみると、そこには開けた広場状になった空間が出来ており、その中央部分にこんもりとした岩が積み重なって小さな岩山を形成していた。

その岩の隙間から水が流れ出しており、流れた水が岩山を中心に円形の泉となっているのだ。

「あれが噂の願いが叶う泉?」

辺りを見回しても人の気配はおろか、モンスターの気配すらない。

「ん〜、これってもしや、私が一番乗り?日頃の行いの差がこういうトコロで出ちゃうんだよねぇ、やっぱり」

それでも一応周囲に気を配りつつ泉へ近寄ってみる。

「来たことなかったから知らなかったけどこんな綺麗な泉があったとはねぇ。瓶に詰めて持って帰れば売れるかな?飲めばアナタの願いが叶う水!な〜んてね」

クアトの言うとおり水は清浄なもので、試しに一口飲んでみると清涼感が口の中に広がり、体中が潤っていく。

「なにコレ!めっちゃくちゃオイシーじゃん。これなら絶対に街で売れるよ、うん」

売れると確信したクアトの脳は、既に売り上げ利益の計算に入っていた。

「そうか!願いが叶う泉って、そういうことなのかな。お金が手に入るんならまさに願ったり叶ったりじゃ〜ん」

脳内で弾き出された利益に顔を緩ませながら、鼻唄交じりに空き瓶に水を詰めていく。

「売れなかったら中身捨てればいいだけだもんね。アタシってば頭いい〜♪みんなには悪いけど願い事はアタシのいただきだね」

手持ちの空き瓶に水を詰め終わり、手ごろな木を背もたれに腰を下ろす。

「それにしても、私なんかがいうのもなんだけど神秘的な場所だな〜……」

改めて辺りを見回してみる。

誰かの手によって整備されたという感じはしないが、それにしては整いすぎている。

それに加えて、この水の持つ成分なのだろうか、この泉の周辺にいる限りモンスターの気配が近づく様子もない。

「しっかし、ロリアの気配もないしな〜。目的地は多分ここだろうし、待ってれば来るよね。……よっし、昼寝でもして待つか!」

そうと決めたクアトは気分を睡眠モードに切り替えて目を瞑る。

クアトがウトウトとし始めたとき、どこからか声が響いてくる。

 

『お前の望みは何だ』

私の望み?

そりゃ、お金持ちになることよ。

『我の言うようにすれば貴様の願いなど些細なことだ』

はぁ?

『一枚噛んでみぬか、我が見込んだ貴様だけに言っておるのだ』

押し売り?

そういうのは間に合ってるんだけど。

『心配するな。利益こそあれど損はさせん』

だから〜……。

『我の言うとおりにすればいいだけだ、難しいことなどない』

…………。

『どうだ、悪いようにはせん。』

ブチッ。

「う・る・さ〜〜〜〜い!」

睡眠を邪魔されたクアトは烈火のごとく怒り出して怒鳴り散らす。

「どこの誰よ!私の極楽睡眠タイムを邪魔するのは!大体ね、お金儲けの醍醐味って ものがわかってない!足で情報調べて口で値切って、そうやって小銭を溜め込んでいくことこそ……って、ありゃ?」

しかし、気がつけば周りには誰もいない。

キョロキョロと周りを見回すも、何も変わった様子はない。

ただチョロチョロと水が湧き出ているだけだ。

「……私、寝ぼけてたのかなあ…………」

気勢を殺がれたクアトはまた一眠りしようとする。

今度は気持ちよく夢の世界へ旅立って行けたクアトであった。

 

 

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