Starting Over -Aine- |
聖プロンテラ修道院、それはミッドガルドの王都プロンテラの一角に所在し人々の癒しの場所である。
傷つき救いを求める人、人々にに安らぎと癒しを与えようと思う人、そのように様々な人が集まる中にあいねの姿はあった・・・。
『なんで私はここにいるんだろう』
よく考えることだ、私は人に安らぎを与えるような人間じゃないだろう。
今は祈りの時間、神父(・・・というより私からしたらただのおじいさんなんだけど)が聖書を朗読してる。
そう、私は今プリーストとなるべく修行中の身であるのだ。
「神に祈るのが何になるっていうのさ。」
ぼそり、とつぶやいた。
「こら、あいねちゃん。そういうことは誰もいないところでいいなさい。」
「はは、詩瑠さんごめん」
詩瑠さんはろりあお姉ちゃんの友達、それであって私にとってはいい先輩にあたる人。
だって、修道院じゃ私と話が会う人なんていないんだもん。
「あまりそんな態度だとプリーストになれないよ。」
「説教は止めてー、私の嫌いな時間ベストテンには入ってるんだから。」
「はぁ・・・まぁ、いいわ。今の時間は祈りの時間よ、静かに祈りましょう。」
(それならはじめから突っ込まなきゃいいのに。)
「私が言わなきゃきっとあとで1時間は神父様の説教だったわよ。」
詩瑠さんは指を組んで祈りながら独り言のようにつぶやいた。
・・・私の考えがわかるのか、やはりかなわないなぁ。
「ふわぁ・・・やっとおわったぁ・・・」
大きく伸びをする。
「一日2時間祈りの義務なんて拷問だよ。」
ぐにー
「う゛に゛っ!」
後ろからほっぺを引っ張るものあり。
「そーんな事言って、神父様に聞かれたらまた説教うけるんだから。」
「ひいりゅひゃん・・・」
「もう少し自分の立場とか考えなさい。」
「ひょうんなひょほひはれへみょ・・・っへ、いひゃい。」
「あら、ごめんなさい」
そういって詩瑠さんはほっぺから手を離してくれた。
「そんな事言われても、思ったことを言ってるだけだよ。」
「少しは心の中にしまっておくとかできないのかしら。」
「私は言いたいことは全部いうの!」
「はぁ、そんな頑固なところはろりあとかわらないのね。」
(って、そんなげんなりして言われても)
「第一、祈りって言うのは他人を思ってのことでしょ。私は他人のために自分を犠牲にしたくはないよ。」
「あら、あの小さかったころの無邪気で人の心配ばかりしてたあいねちゃんらしくないわね。」
詩瑠さんはそうやってくすくす笑ってる。
「私はあのころの軟弱なあいねじゃないよ!」
「そうね、いつかわかる日がくると思うわ。だから、ヒールくらいできるようになっておきましょうね、いつまでもポータルしかできないようじゃだめだわ。」
「えー!便利なんだから!お金にもなるし、気に食わない人飛ばしたりできるし!」
「だからそういう・・・まぁ、コツくらいなら教えてあげられるから今から練習しましょう。」
「う〜、私の安らぎの時間は・・・」
「ほら、文句いわないの、いくわよ。」
どうやら今日も私に自由はないらしい。
―数日後。
詩瑠さんの様子が変だ。
なんだか時々ほうけてたり・・・らしくない。
「あいねちゃん、あの・・・いえ、なんでもないわ。」
極めつけにはこんな一言ときたもんだ。
「なんでもない内容は何、私に知られるとまずいことでもあるの?」
私は不機嫌に聞き返した。
「いえ、本当になんでもないのよ。」
「なんでもないなら私に言ったって問題ないでしょ!私はそうやって隠されるのはいやだよ!」
詩瑠さんは考え込んでしまった。
そんなに深刻な悩みなんだろうか。
いや、深刻な悩みだってことは最近の様子からわかってた、問題は私に関係にあることだったってことだ。
「そうね、あいねちゃんにはいずれ知れることね・・・」
詩瑠さんは覚悟を決めたようにぽつぽつと語り始めた。
「実は・・・ろりあが一昨日狩りに出てから帰ってないらしいの。」
「え・・・」
うそ、おねえちゃんが・・・オネエチャンガ・・・
「フェイヨンには死者を弔った洞窟があるのは知ってるよね。一昨日ろりあらしき人が入っていったのを目撃してる人がいるわ。」
「でもあそこは・・・」
あの洞窟はフェイヨンで育った子供ならだれでも知ってる、みんな近寄ってはいけないと教えられて育てられるから・・・
「たぶんろりあはフェイヨンの先人達が現世を彷徨っているのが堪らなかったんだと思うの。」
「・・・助けに行かないと。」
「あいねちゃん。」
「助けにいかないと!」
そういって飛び出そうとするわたしの手を思いっきり詩瑠さんに引っ張られた。
「あいねちゃん落ち着いて!」
「落ち着いていられるわけないじゃない!」
「あいねちゃん!こう言い方はしたくないけれど、あいねちゃんが行ってどうなるの?」
「わからない・・・!でも行かないと、お姉ちゃんを助けないと!不死者を成仏させるための戦い方は教わってるし!」
私は手を振り解こうと暴れた。
「お姉ちゃんが危ない目にあってるのにだまって待っているなんてできないよ!」
ぴしぃっ!
頬に痛みが走った。
「落ち着いて聞いてね、まだろりあが危ないと決まったわけじゃないのよ。」
「っく、でも帰ってきてないって・・・」
涙が、堰が出てきた、もう泣くまいと誓っていたのに。
お姉ちゃんと誓ったのに、強くなるって。
そうやって泣いてた私を詩瑠さんがそっと抱き寄せてくれた。
「フェイヨンには私が行くわ、私は大丈夫よ、何度か不死者を成仏させるために行っているもの。それにろりあだって絶対無事よ、きっと矢がなくなって身を潜めているんだわ。」
私を抱いてる詩瑠さんの体は少し震えていた。
そして詩瑠さんはすぐに準備をしてフェイヨンへと旅立っていった。
―翌日
「私はやっぱり悪い娘なのかなぁ。」
詩瑠さんには止められた、けどやっぱり待ってることなんてできないよ。
「メイスは持った。青ジェムもある。ミルクも、うー・・・胸大きくならないなぁ、ってまだまだこれからだもん。」
思えば修行をはじめてからぜんぜんお姉ちゃんとあってなかったな、詩瑠さんがいろいろ話を聞かせてくれるから安心してたけど。
「さて、行こうかな。大丈夫、私も、お姉ちゃんも、詩瑠さんも、みんな無事だよ。」
―求むれば、我らを彼の地へと運ばん―
「ワープポータル!!」
待ってて、お姉ちゃん。
フェイヨン、緑の多き町。
町の周辺には木々が茂っており、町にはアーチャーにならんとする若者と不死者を成仏させんとする討伐隊で賑わっている。
「ふぅ、ついたーっていってもポータルだから一瞬だけど。」
ちゅんちゅん、洞窟へ向かって歩いてると鳥のさえずりが聞こえてくる。
「やっぱり自然はいいなぁ・・・と、洞窟か、入るのちょっと勇気いるなぁ。」
少しためらってると知らない男が近づいてきた。
「お嬢さん、ここで修行だよね、僕でよかったらご一緒しないかな。」
これは、このフレーズは・・・
「悪いけど、ナンパお断りだよ。」
そうして洞窟のほうに向きなおす。
「そんなつれないこと言わないでさ。」
・・・あれ、今知ってる少女が洞窟に入っていったような、気のせいかな。
「な、いいだろ。」
私は無視して洞窟へと歩き出した。
「よし、行こうか。」
どうやら歩き出したのをOKのサインと勘違いしているらしい。
どうやらこの手の人間はきちんと言ってやらないと分からないみたいだ。
「これ以上付きまとうなら叩くよ。」
男はその場に立ち尽くしていた、そんなに理想と違ったのだろうか。
洞窟の中は薄暗かった。遠くではバサッバサッと羽音や「ぐおぉ」やら「うおぉ」やらうめき声が聞こえてくる。
ぶるぶるっと、ちょっと身震いをした、お姉ちゃんを探しに行こうという気持ちと帰りたいという恐怖とが拮抗して進めずにいる。
「とりあえず、灯りが足りないかな。ルアフ!!」
外と比べればずっと暗いけどやや明るくなったために少しずつ恐怖が薄らいでいく。
「さてと、捜索開始しないと・・・って、うわぁ!」
バサッバサッ
「い、いつの間にこんなところにコウモリが。でも、これくらいなら大して痛くないから大丈夫。」
落ち着いてメイスを振り下ろす。
スカッ、スカッ、スカッ・・・
「このぉ!逃げ回るな!」
スカッ、バシッ、スカッ、スカッ、バシッ、バシッ
ふぅ、やっと倒した・・・けどこんな調子でやっていけるんだろうか。
「とりあえず進まないとな・・・って骨が踊ってる!」
前、後、前、後、骨が軽快なステップを踏んでいる。
「襲ってこないのかな。戦わずにすむならそのほうがいいんだけど。」
しかし、頭のなかにふとよくない考えがよぎる。
―私はどこまで戦えるんだろう。
「えいっ!」
気づいた時にはメイスを振り下ろしていた。
叩かれて怒った骨が手に武器をもって襲ってくる。
・・・武器といっても自分の骨を抜き取って手にもってるんだけど。
私もメイスで応戦する
スカッ、スカッ・・・
なかなか巧みなフットワークだ、ヒットアンドアウェイというのであろうか、後に下がって私の攻撃を避けつつ前に出てきて私の腕に足に容赦なく攻撃を叩きつけてくる。
「痛っ・・・」
私もメイスで応戦するものの、相手をなかなか捕らえることができない。
「下がるのは卑怯・・・あ、前にでてきたところを狙えば・・・!」
スカッ、バキッ、バキッ!ガラガラ・・・・
「うわ・・・」
私のメイスは命中した。その結果、骨がばらばらに崩れ落ちた。
昔神父のおじいさんが言ってた「聖なる心を持ってして成仏できぬものたちを叩けばその攻撃は通常に叩くことをはるかに凌駕した攻撃になる」って、こういうことだったのかな。
って、私のなかに聖なる心なんて・・・
とりあえず、私って結構戦えるのかもしれない。
この調子ならおねえちゃんもすぐ見つかるかな、お姉ちゃん矢がなかったら何にもできないからなぁ。
「・・・これがキノコ岩かぁ。」
修道院にいるとなにかとこの洞窟の話が出てたりする。
先輩が後輩にここが修行にちょうどいいとか言う話をしてたりするのだ、フェイヨン出身の私からするととんでもない話をしてるとしか思ってなかったんだけど。
詩瑠さん以外の先輩とはほとんど話さないから修行場所を勧められるなんてことなかったけども。
とりあえず、教えてたりする話が耳に入っていたためキノコ岩という名前は知っていたのだ。
・・・後輩といっても私から見たら先輩なんだけどね。
「なにか来る。」
「ぐうぅ」といううめき声が近づいてくる・・・これは
「ゾンビ!」
このとき私は少し自惚れてた、骨だって倒せたんだからゾンビくらいいけるって。
メイスを思いっきり振りかぶる
ばしっ、ばしっ・・・
ほら、動きが鈍いから攻撃だって簡単にあたる。
ソンビが腕を振りかぶってる。
でも大丈夫、骨だって痛かったけど耐えれたんだ。
ズバッ!
「うわぁ・・・! ぐうぅ・・・痛ぁ・・・ミルクを・・・!」
ミルクを飲みながら痛いけど戦う・・・戦えないことはない。
ばしっ、ばしっ、ズバッ!ばしっ・・・
「ぐぉ・・・」と断末魔をあげてゾンビが倒れた。
「はぁ・・・ハァ・・・勝てた・・・」
安堵のため息を上げた瞬間のことだった。
「うそ・・・」
私は絶望に打ちひしがれた、「もうだめかも」と。
戦ってて気づかなかった、私は囲まれていたのだ。
「ゾンビ3匹・・・もう痛いのはいやだよ、こないで・・・」
私はすでに泣き出しそうだった、でも今は泣くわけにはいけない、この状況を何とかせねば。
「逃げる・・・?」
いや、だめだ、囲まれている、どちらに進んでも戦いは避けれない。
「テレポート・・・」
するわけには行かなかった、初めての土地だ、飛んだら迷子になる。
かといって町に戻ってしまっては時間がかかりすぎてお姉ちゃんが助からないかも知れない。
詩瑠さんが探してるはずだけど、二人でばらばらに探したほうが絶対に早いはず。
そう悩んでる間にもじりじりとゾンビは距離を縮めてくる。
「覚悟を・・・決めるか。」
この数はつらいけど、ミルクもある、痛みに耐えて叩いてればきっと勝てるはず。
いや、勝たないといけないんだ!
ばしっ、ズバッ!ばしっ、ズバッ!ズバッ!
「うわぁ!」
痛い、回復すれば何度もこの痛みに耐えないといけないかと思うと回復を止めたくさえなる。
ばしっ、ズバッ!ばしっ、ズバッ!ズバッ!
「ハァ・・・ハァ・・・もうだめ・・・」
精神がおかしくなりそうだった、もう、痛みから解放してほしい・・・
「マグナムブレイク!!」
痛みは去っていた・・・でも、何があったのか確かめる気力がいまの私にはなかった。
「あいねちゃん大丈夫!?」
誰だろう・・・少なくとも私の知り合いらしい。
「ほら、ミルク飲んで。あいねちゃんがここにいるわけないと思って勘違いかと思ったけどやっぱりあいねちゃんだったんだ。」
ミルクをのんで気分が楽になってきた、目の前の少女を確認する。
「あれ、ふーちゃん?」
ふーちゃんはお姉ちゃんと私とよく遊んでたお友達。
一緒に修道院に入ったけど、モンスターから町の人々を守るために剣士になったというエピソードつき。
信仰心なら私より厚いと思うけど。
「洞窟の前で見かけましたけど殿方とお話になっていたようでしたので他人の空似だと思っていました。」
あぁそうか、洞窟に入る前にみたのはふーちゃんだったんだ。
って、私が男と話したらだめなのか。
「いろいろね、あるのよ。ふーちゃんだって声くらいかけられるでしょ。」
「確かに声をかけてくる方はいらっしゃいますが、殿方に着いて行ってはいけないと母に言われていますから。」
「まぁ、ふーちゃんの場合、絶対についていかないくらいに言い聞かせた判断は正しいね。」
「どういう意味でしょう。」
「わからないならわからないでいいと思うよ。」
「はぁ・・・と、ここは少々危険ですので少し移動しましょうか。」
ふーちゃんだけなら多分ここでも大丈夫だんだろうけど・・・私はやはり足手まといなんだろうか。
「私が敵の正面に立ちますのであいねちゃんは後ろから叩いてくださいね。」
そんなやさしい言葉が少し身にしみた。
「ここならおそらく大丈夫ですね。」
そういって壁によしかかった。
「えっとさー、ふーちゃんはいつもここに来てるのかな?」
「いいえ、来ませんよ。今日きた理由はおそらくあいねちゃんと同じだと思いますよ。」
「やっぱり・・・お姉ちゃんか。」
「はい、あの日は珍しく一緒に行動していましたので。」
一緒に・・・ふーちゃんと一緒、なら何故今ふーちゃんはおねえちゃんを探しに来てるの。
―短い沈黙が続く、ふーちゃんは私の心を察してしまったのだろうか。
「あいねちゃん、ごめんなさい。」
「なんでふーちゃんが謝るのさ。」
「私が守りきれなかったばかりに・・・」
「やめてよ・・・おねえちゃんは無事だよ・・・絶対!」
それは悲鳴に近かったのかもしれない、お姉ちゃんの身が危険だなんて信じたくなかった。
「あいねちゃん・・・」
―また短い沈黙が続く、ふーちゃんは難しい顔をしてる。
「この先に・・・」
ふーちゃんは何かを決したようだった
「この先に狸などの居住区があります。この洞窟のモンスターは住み分けをしているので基本的にほかのモンスターはいないのですが、時々さらに奥に住む不死者や、昔ここを住処にしていた不死者が現れるのです。狸などはこちらから攻撃しない限り襲ってこない比較的安全ですが、その不死者は凶悪で・・・」
「まさか!」
「あの日は狸などの狩りを行っていたのですが・・・矢がそこを尽きかけて帰ろうとしたときに不死者に襲われて、私を逃がすためにろりあんは敵をひきつけてどこかに・・・」
「おねえちゃん・・・」
「私が無理にその居住区に誘わなければよかったんです、ここで狩っていれば安全だったはずです。」
「ふーちゃんは悪くないよ、お姉ちゃんがそう判断したならきっとお姉ちゃんは大丈夫。」
「そう・・・ですね。」
「そうだよ。」
だから、お姉ちゃん無事でいて・・・